風に揺蕩う物語

「嵐の日に一時だけ晴れ渡る事があるだろ?僕的にはそれと同じ事が起きている気がするんだよ。良くも悪くも、近々僕の体に大きな変化が起きそうな前触れって感じって言えば良いのか…」

最近の僕は良く笑うし、良く考え込む。それにリオナスの時もそうだし、ロイス様の時もそうだが、理性が飛びそうになる。

血が滾り拳に力が入る。この一年で作り上げた性格が、昔の頃の性格に戻りそうになる。

この感覚が良い方に進むのか、悪い方に進むのかは僕は分からないが。

「何を言っているのか私には分からないけど、体調が良いのは喜ぶべき事よ。それ以上難しい事は考える必要はないと思う…違う?」

グラスに入っていたお酒を一気に飲み干したセレスティアは、そう言うとそのまま椅子から立ち上がり、ヒューゴに手の甲を上に向けながら手を差し出す。

「私はヒューゴの体調が良ければそれで良いの。一曲踊りましょう…」

目を細めながらそう話すセレスティアの言葉に、ヒューゴは断わりの言葉を述べる事が出来ず、目の前に差し出された手を掴んでしまった。

冷静な判断が出来る状態なら、勇気を持って断りを入れるのが正解だ。なぜなら婚約が決まっている王族と公の場でダンスを共にするなど言語道断なのだから。

やはりヒューゴは平素の彼とは違う。目の前に差し出された至宝を思わず自分の物にしようと考えてしまったのだから。

そしてセレスティアもまた平素と違う。酒に呑まれている雰囲気は皆無だが、それでもヒューゴの事を特に気にかけている様にしか見えない。

この時のダンスが、取り返しの付かない事態へ発展させるなどヒューゴは、夢にも思っていないだろう。運命の分岐点がここで大きく進展を見せる事になる。

「…ヒューゴ・シャオシールはセレスティア様に想いを馳せている。展開としては悪くないとは思わないか?」

シル・ロイスは独り言を漏らす。誰に話しかけるでもなくその言葉を述べると、急に笑顔を見せる。

「そうだよな。結末を描くのはそう難しい事ではない…これで決まりだ。準備が出来次第、ヒューゴにはもう一曲踊ってもらおうか」

何に満足したのかロイスはそのまま微笑を浮かべ、会場を後にする。不思議と彼の呟きは、誰に聞かれるでもなく会場の喧噪に飲み込まれていた。