風に揺蕩う物語

ヒューゴに対してのロイスの好戦的な態度は常だった。それは理解していたのだが、癇に障る事をあえて口にするロイスの口車に、思わず乗ってしまったのだ。

「以後気をつけます」

「ふふっでも言われたら言い返す姿の方があなたらしいわよ。公の場以外ならもっと言い返すと良いわ」

そう話すセレスティアは、目配せをすると開いているテーブルの方を向く。どうやら開いていると言うよりかは、開けさせたと言う方が適切なようだが。

「立ち話は疲れるわ。座って会話でもしましょう」

公の場でのケンカは確かにまずい。だがセレスティアと公の場で、然も対等の立ち位置で会話をする方が問題の様な気がする。

そう考えているヒューゴだったが、いつの間にかセレスティアと向かい合う様に椅子に座り、目の前には黄金色に輝く酒と、綺麗に盛り付けされた果物が置いてあった。

「最近、体調に変化はあった?」

「特にはないかな。調子の良い日々を過ごしているよ」

例に従って会話が届きそうな位置には誰も近づけない様に、手配を済ませてあるので、敬語抜きで会話をする。

なぜか最近のセレスティアは、ヒューゴが敬語を話すと不機嫌になるからだ。

「そう…なら良いけど」

目の前に置いてある酒に口をつけ、ため息交じりに答える。

「僕が健康だと不満かい?」

「…笑えないわね。そういう冗談は嫌いよ」

随分と怖い顔をなさる。遠巻きに見守っている近衛兵が不審な表情をしてこっちを見ているし。

でもまぁ、昔の上官に突っかかってくる雰囲気はないけど。

「これぐらいの冗談が言えるぐらい健康的って事で納得してよ。本当に最近は調子が良いんだ…嵐の前兆の様な気がするぐらいね」

「前兆?」

セレスティアは不機嫌な様子を隠す事無くヒューゴを見ているのだが、綺麗に整えられた眉を軽く振るわせながら前兆という言葉を復唱した。