風に揺蕩う物語

するとその時を待ってたかの様に、複数の正装に着飾った男性がシャロンの下に歩み寄る。

そしてそんな男達の中で、一番早くシャロンの下に辿り着いた男性が、微笑みを携えながら話しかける。

「どうか私とも一曲ご付き合い頂けませんでしょうか？」

「えっその…」

シャロンは視線を彷徨わせ、ヒューゴの方に視線を送ると、ヒューゴは笑顔で片手を振ると、そのまま離れていく。

「私でよろしければ……是非お付き合いさせて頂きます」

シャロンからしてみれば、この会場に居る者のほとんどが、見上げるほど身分が高い者達ばかりだ。当然その方々の誘いを断る事が出来る訳もなく、誘いを受ける以外の選択肢はなかった。

ヒューゴはシャロンの元を離れると、領家の御令嬢の熱い視線あえて無視し、そのまま踊りの輪の中から離れて行った。

基本的にダンスの誘いは男性がするもので、女性からする事は出来ない。ヒューゴが踊りに誘う気がない事を知った御令嬢達は、そのまま次の相手を探す旅に出る羽目になった。

「これはこれはヒューゴ殿。一曲だけしか踊られないのか？」

声をかけてきた相手の方を見たヒューゴは、内心溜息をつきながらも、それを表に出す事無く、笑顔で対応する。

「久しぶりに踊ったら気疲れしまして、少し小休止をしようかと思っただけですよロイス様」

ヒューゴの前に現れた男は、シル・ロイスというエストール王国最大の貿易港を持つハーゲンの領主の息子であり、今は元老院で領主に代わり、最大権力を保持している一人だ。

エストール王国では近年、階級制度の緩和をする流れに進んでいるのだが、ただ一人鉄の階級制度を推進し続けている。それ故に、豪族上がりのヒューゴをとても気にかけているのだ。