太陽が西に沈み夕焼け空を経て、惑星が輝く夜空に変わる。

エストール城の中庭では火が焚かれ、夕闇に生える橙色の明かりが普段の静寂に包まれる時間を、違うものに変えている様に感じられる。

宮殿の中では宴が始まっていた。

社交界とでも言えるこの宴は、グレイス共和国との良好な関係を現すかの様に、一時の時間を楽しむ為のものであり、庶民が参加出来る宴ではないものの、傍から見れば祭りが始まったかの様な盛り上がりを見せていた。

式典には参加しなかった貴族や地方領主などのご令嬢などが、煌びやかなドレスを身に纏い、この社交場に足を延ばしていた。

その背景にはやはり、良い縁談を滞りなく勧める為の画策が見える。

地位の安定を図る者もいれば、さらなる高みに進む為の足がかりを探す者もいる。手っ取り早くそれらの恩恵を受ける方法として、婚約があるわけで。

少しでも綺麗に着飾った娘を連れ、この様な社交場に足を運ぶのも一種の仕事であった。

三百人はゆうに入れるであろう二階まで吹き抜けになっている会場には、ほのかに香る酒の匂いと共に、甘い芳香を纏った若い娘たちが数多く居た。

ヒューゴは実務とも言える軍部の部隊体系の書類などの整理などをして時間を潰した後、この会場に姿を現した。

シャロンを連れて会場に入ろうと思っていたヒューゴだったが、説得もむなしく会場の外で待機すると言った手段を断行したシャロンの説得に失敗。

一人さみしく会場入りしたヒューゴは、すぐさま近づいてきた給仕に差し出されたグラスを受け取り、多少行儀の悪い姿勢で壁に寄りかかりながら、グラスに口をつけていた。

会場にはセレスティアの姿はまだない。ヴェルハルトとヒクサクは会場に中央にある階段を上った先にある豪華な席に座り、何やら会話を続けている。

そんな二人を遠巻きに見守り、何やら会話のタイミングを図っている人もチラホラ見える。どうやら媚を売ろうと躍起になっている輩も居るようだ。