高官になる事は名声を掴むこと。そしてアロニア大陸一の国力を持つエストール王国の貴族の仲間入りを果たす事は、他国と個人で国交を持てるだけの力を有する事に繋がるのだ。

王族騎士の功績から、エストール王国の領主を与えられた貴族も少なくない。

ヒューゴが務めていたセレスティアの近衛兵の立場が空き、そこにリオナスが兼任したとて、その後は空位になるのだ。

元来セレスティアがグレイス共和国に婿入りしたとしても、エストール王国から女官や自衛の為の騎士の何人は、数年間はグレイス共和国に常駐する事になる。

リオナスは騎馬大将の地位が約束されているので、グレイス共和国には行けない。ヒューゴが騎馬大将の立場に納まっていたのであれば、リオナスがグレイス共和国に行ったのだが。

今のリオナスの立場に納まることは、事実上の貴族の仲間入りを意味する出来事だ。この状況を喜ばない者などいないのだった。

「まぁワシの聞いた話では、ヴェルハルト様が心を置く私兵が、リオナス殿が騎馬隊の上役に移ると同時に、セレスティア様の護衛を兼任する様だから、ヒューゴ殿の地位が揺るぐことはなさそうだが…きな臭い画策をする者が多いのが事実だ」

ギルバートは腕を組み、前かがみで猫背の様な姿勢を取る様に試案に耽る。

本来シャロンに聞かせて良い話ではないのだが、シャロンの人となりを見て、ギルバートは話して聞かせても大丈夫だと判断したのだろう。

シャロンは姿勢を正しながら話を聞く。常に姿勢は正しいのだが…。

「ヒューゴ殿に限って、無法者の手にかかる様な不手際は起こさないとは思うが、それでも気をつけた方が良いだろうな…こうは言いたくないが、居ても居なくても変わらない様な立場に居るヒューゴ殿に、強硬手段を取ろうとする者が居てもおかしくはない」

薄々気づいてはいた事実を、ギルバートが真実味がある話にする。シャオシール家を良く思わない者による陰謀があると。

「ヒューゴ殿は武で名声を受けた武人だ。その事を考えると、正面から打って出る様な手段は取らないはず。シャロンも周辺でおかしな事が起きた時は、疑ってかかった方が良い…この事を頭の片隅に置いといてくれ」

背筋が寒くなる様な話を聞いたシャロンは、静かにゆっくりとギルバートの言葉に頷く事しか出来なかった。