風に揺蕩う物語

「ヒューゴ様。ヒューゴ様…」

眠っていたか…。

めまいを覚え、少し考えにふけっている間に、外は夕焼け空に変わろうとしていた。

ヒューゴは頬杖をつきながら眠っていたようで、肘が少し痺れる感覚を感じながら目を覚ました。気がつくと肩には絹地で出来た上着が掛けられており、柔らかな感触がとても心地よい眠りを一層引き立てたのだろう。

そしてこの上着は、眠りについていたヒューゴの肩にシャロンが掛けたのは言うまでもない。

「お休み中すみません。そろそろお屋敷の方にお帰りになる時間です」

「ごめんよシャロン。寝るつもりはなかったんだけどな」

無理な体勢で寝ていたせいか体の節々が痛い。由緒ある武家であるシャオシール家の当主が聞いて呆れるとヒューゴは心の中でため息を吐いた。

ヒューゴは肩に掛けられていた上着をそのまま着こみ、寝る前まで読んでいた本を手に抱えると、一つ大きく深呼吸した後、眠気で硬直している頭を振った。

「それじゃ帰ろうか」

「はい。帰ったらすぐにお食事の用意を致しますね」

これからの僕の日課は屋敷に帰り、食事を取り、屋敷に届いた書簡に目を通したり、書簡を認めるなど雑務をこなした後、医学の勉学に励むのが日課になっている。

昔の様に剣や槍などの鍛練を行ったり、甲冑の手入れなどをする事は今はない。

日常に少しの物足りなさを感じる事は今でもある。武術に汗を流し、同じ騎士同士切磋琢磨する様な日々を思い出し、懐かしむ事も少なくない。

でも代わりに本当の平穏を手に入れたような気がするんだ。使用人のシャロンとも僕の王宮に居る時間がなくなり、屋敷に居る時間が長くなったためか、長い時間を共にする様になった。

それにシャロンは、父が亡くなってからは僕の事を一番心配してくれる様になったし。

武家である以上、エストール王国の為ならいつ死んでも良い様に覚悟は決まっている。それが家訓でもあり、王国の騎士としての名誉でもあるからだ。

その名誉を受けて亡くなった父の存在を見て、シャロンは僕に対して過保護になった様な気はするが…家族の愛情って事で納得しているけどね。