孝廉が目覚めたのは、辺りがすっかり暗くなった頃だった。
焚火の火はとっくに燃え尽きていた。

 孝廉の目を覚まさせたのは、人の気配だった。
孝廉は静かに短刀の柄に手を掛けた。

―…っ取り囲まれている

 全部で十七人、孝廉は暗闇の中、音のみで人数を確認すると、荷物を手繰りよせた。

 不意に、孝廉は殺気が膨れ上がるのを感じた。
縄が空を切る音が一瞬のうちに自分を取り巻いたかと思えば、孝廉は縄を全てなぎ払っていた。

 孝廉を縛り損ねた人影は、跳ぶように間合いをつめてきた。
一刻の猶予もない。
孝廉はすぐさま敦慶に飛び乗った。

「行こうっ敦慶!!!」

 孝廉は襲撃者の輪を飛び越えた。

―…人食いだろうか

 敦慶の背にしがみついたまま、孝廉は後ろを振り返った。
襲撃者達とて諦めるつもりはないのだろう。
敦慶の脚力で引き離してこそいるが、確実に足跡を辿ってきている。
孝廉は相手が熟練した襲撃者だと悟った。

 延々と広がる砂地には草木の一本さえ、ましてや生き物の姿もない。
環境は、時に人間に人間を食わせるようにさえなるのだ。

 孝廉は鞍の上で体制をたて直すと、片手で手綱を握った。
相手は敦慶が疲れるのを待っている。
ならば、その前にどうにかしなくては―…。
孝廉は、敦慶の向きを変え、襲撃者に向かい合った。
十七人―…孝廉は最初の奇襲で襲撃者が追撃には慣れているようだが、腕のたつ者はいないことを見切っていた。
敦慶を走らせた。
片手に手綱を、もう一方に短刀を持って、孝廉は襲撃者達に突っ込んだ。