「香奈、今日はな、店に変な客がきてな、大変だったんだぜ」
「香奈、今日は外は雨。しかも嵐に近い。俺ぶっ飛ぶかと思った」
「香奈、今日は・・・」

香奈香奈香奈。

俺は毎日毎日香奈のところに通った。
話しかけても返事なんかない。
香奈はぱっちりとした大きな目を瞬きすらせずに開いて
ぼーっと壁を見てる。


「おっさん!香奈そっくりの人形じゃねーのか!?」
俺はおっさんに何百回と聞いた。

「大翔様・・・何度も申し上げております、ご本人様でございます。」

「だ・・・だよな・・・」
俺は苛立っていた。
毎日毎日何時間も香奈に話しかけているのにうんともスンとも言わないんだ。

香奈に何があったのか聞きたい。
俺の前から突然いなくなった理由が知りたい。

一度も香奈の口から聞けたことのなかったあの一言が聞きたい。

「香奈・・・」

俺が香奈の手を握った瞬間、香奈がゆっくりこっちを向いた。

「ヤマト・・・ヤマ・・・ヤマト」

「香奈!俺がわかるのか!?大翔だよ!」

「ヤマ・・・・・イヤァァァァァ!!!!!」

香奈は突然暴れだした。
俺は手首をつかまれて動けない。
すごい勢いで俺に殴りかかろうとしてきた。
「大翔様!!」
おっさんが俺を香奈から引き離し、香奈に手をかざした瞬間
またもとの香奈に戻った。
壁をぼーっと見つめている。

「ハァハァ・・・おっさん・・いったい・・・ハァハァ」
俺は息が上がって、驚きで言葉がでない。

「大翔様、別室でお話しましょう。こちらへ」
おっさんは床に座りこんでしまった俺に手を差し伸べた。