「怒り」 


 命は限りなく遠いどこかからきたものだ。宇宙の神秘と言ってもいい。

 だがこの命さえ、途方もない産物とも考えられ……つまりは……われわれは宇宙人なのだ。

 博士は日誌を書く手を止め、ゆっくりと目を押さえた。

 彼にはわかっていた。

 彼の日本オオカミは戻るだろう、すぐに。

 
 その頃ゲイシャガールはどうしていたかというと、

「おいワン公、そこのけよ」

「きさまにわんこうなどと、呼ばわれる筋合いはないわい」

 研究室の表で寝ていたシェパードが言った。

「第一学会の笑いもののくせをして」

「笑い者は有頂天になっていた博士だけだ。一緒にするな」

「生みの親を世間と一緒になってせせら笑うとは。やはり半端者だな。俺は立派な飼い主がいて誇らしいぞ」

「一緒に笑われる気はないといっているんだ。大きなお世話だ」

「プライドだけは犬並みか」

「宇宙人並と言ってほしいね」

「なんだか知らんが宇宙人が泣くとおもわんか? 自分で繁殖もできんキメラが」

「雌雄同体が良ければカタツムリにでも教えを乞う。おまえがいうな」

 ゲイシャガールは案の定、ちょっと早めに帰ってきた。

 博士は扉を開け、満面の笑顔でむかえた。

「ようこそ、宇宙の神秘君」



「………もう一回、喧嘩してくる」                        


                                      了