俺はカッとなりかけて、危うくお嬢の首を絞めそうになった。
実際、その子犬は母犬を失い、乳を吸えずに栄養失調になってぐったり、死にかけているのだ。売っても大した値は付かないだろう。
それよりかは、やはりお嬢の方が……
値踏みして観ていると、いらだつような叱責ひとつ。
「おまえだってこの子をどうかしようと言うのでしょう。この子の母犬は消えてしまった。私にはこの子しか居ないの。放っておいて」
……ようく、わかっているじゃないか……
俺の育てた犬は俺が学校へ行っている間に犬買いに売られた。川で骨と首輪だけになっていた。
この戦後の飢えの真っ最中、おまえだけトクベツなのはなんでなんだよ!
戦争は等しく全てを奪い去ったというのに、なんでおまえだけが!
こうものうのうと家の奥にいられるんだよ!



