狗喰い~刻のまにまに~

 俺は走った。
 
 どこまでも、石にかじりつき、山河を極め、走り続けた。

「もう、だめだ……」

 あんな犬っころ一匹、犠牲にしたところで、幸運など訪れようはずもなかったのだ。

 ただのコソドロの俺に……そうさな、ある意味観音様みたいだよ、お嬢はよ。

 こんな俺に引導を渡してくれたんだもんな。

 ありがたいこった。

 俺は乾き、へとへとになりながら谷まで走った。

 泉の水はぬるかった。