彼女は後ろを向いて
窓の方を向いた。
「べつに、なんでもないよ」
「泣いてる?」
「泣いてないよ」
声が曇っていた。
上手くいえないけど
かすれていたとか
震えていたというよりも
曇っていた。
今にも雨がふりそうで
それでも黒い曇が邪魔して降らない。
あの瞬間の彼女を例えれば曇り空。
俺はそう思った。
「春花、俺はお前のこと分かんねぇや」
「分からなくていいよ」
表情を覆い隠すような曇に俺は戸惑う。
俺は目の前の春花の小さな背中をどうしようもなく可愛く思って
抱き寄せて、ピンク色の唇に触れるだけのキスをした。


