代表作"日曜日のレモンライム"が公開されたころは、メディアや雑誌が彼をこぞって取り上げたおかげで、姿を見ない日なんて殆どなかった。


世界に愛された男、桐生怜二。


「引越してくるのは、明日っていう話じゃなかったかしら?」

「…今日は、町の下見に来ただけです。ちょっと、酔っ払って…」



―ちょっとどころじゃなかったんだけどなぁ。


かの有名な俳優が、女装までしてこんな小さな町で酔いつぶれるなんて。本当に色々と事情があるようだ。


桐生怜二は、気まずそうな顔をしながら、身体を起こして、はだけてしまったシャツを調えている。

シャツの下に、既に塞がってはいるが、引き攣れた傷跡が刻まれているのがはっきりと見えた。



―撮影中に、熱狂的なファンに刺されて、以降メディアに姿を見せない。


ニュースで流れていたのが、ふと思い出された。