自分の心臓が、どくどくと音を立てるのが聞こえた。
木本さんの視線が真っ直ぐ俺に向けられているのを肌に感じる。社長がゆっくりと目配せをすると、木本さんが立ち上がり俺の目の前に立った。
「小林先生の作品を、他社と協同し、今以上にフィールドを広げて売り出していくという方針で考えている」
「…それは!前に何度もご説明しましたが、彼女にその意志はありません」
「なぜなんだ?どうして、小林先生はそう頑なに首を横に振るんだね。むしろ喜ばしい話だ。自分の作品をより多くの人間に触れてもらう絶好の機会だというのに。君は、先生にどういう依頼の仕方をしている」
くらりと視界が一瞬揺れた。
社長と、そして編集長の考えていることがようやく理解出来た。ようは、彼らが言いたいのは。
「それは私の、役不足だと…、」
「そうは言っていないよ。彼女の埋もれていた才能を見つけ出したのは君だ。先生の心のうちを衝動的に形にしただけの作品から、ベストセラーを出すまでに育てた君の力は高く評価している」

