ナイフで刺された腹をシャツの上から、そっとなぞる。

俺は"あの時”からずっと独り、木本巧に昨晩味わわされたような屈辱と絶望とに苛まれ続けるものだと思っていたのに。


欠陥品である俺の目の前には、小林秀宇がいて、あたたかいスープをスプーンで掬いながらこうして話をしている。

微睡む空気が漂うこの部屋で、彼女が"ナナ"と呼ぶクレノサツキとかいう人間も同じ気持ちでいたのだろうか。


-俺は、すこし焦ってる。

アメリカにいたときのような贅沢など何一つないこの場所なのに、どうして随分と居心地がいいみたいだ。

このまま立ち上がることもせず、穏やかな時に身を蝕まれて消えてしまうんじゃないか。

そんなことがふと頭に浮かんで、なんだか酷く怖かった。