「流石ですね、先生」


彼女の類稀なる才能だ。

それに初めて触れたのは、古本屋の片隅で売られていた彼女の処女作を、偶然手に取ったときだった。

誰の目にも触れられず、ひっそりと、でも確かに、彼女の才能はそこで息をしていた。

それを見つけられたことは、この仕事をするうえで幸運以外のなにものでもない。



思うに。

俺は、自分でもびっくりするくらいに、自分が好きなものに対しての欲望に従順なのだ。

今好きなものはきっと、このうんざりするくらいに長い坂、こじんまりとしたアパルトマン、そして小林秀宇の生み出す世界だ。