Paradise Jack



嬉しそうにカクテルを受け取り、何か熱心に言葉をやり取りしたあと、ふたりして席を立った。

空のグラスを持つことが、どうやらこの店ではそういう"取引"を待つ合図となっているらしい。

少なくとも俺が通っていた頃には、そういった話はなかったはずだ。
どうやら、この数年で随分と変わってしまったようだ。




「ここには、チャンスが満ちている」


彼らの後姿を、木本巧が口元に笑みを浮かべながら見つめる。

腰に触れた手が太股に触れようと動いたそのとき、反射的に木本に贈られたギムレットを真正面からぶっ掛けていた。



「"I suppose it's a bit too early for a gimlet(ギムレットには早すぎる)"」

「THE LONG GOODBYEの台詞か。君がハードボイルドを読むとは意外だなァ。けれど、時刻は25時をとっくに過ぎているよ、お嬢さん」


ぽたぽたと、酒を滴らせながらにんまりする木本を小さく睨む。

当たり前にあることだ。この世界に限らず、どこにでも。
自分が持ち得るものを利用してチャンスを掴む。利用して、利用されて、輝かしい光の裏には、そんな闇が潜むのも事実だ。

そんなこと、わかりきっていたくせに。