「俺に近寄るな。関わるな」
頭のなかで回る記憶。
なんどもなんども蘇る。
あの日私は大切な友達をなくした。


心の躍らない入学式。
私は今年桜貝高校の一年になった。
人付き合いの苦手な私にとって
知らない人に囲まれる事は苦痛でしかなかった。


桜貝高校は私の通っていた中学からだいぶ離れている。
いわゆる、校区外の学校だ。
親の転勤により、私も引っ越しをするはめになった。
だから知り合いもおらず、みんながみんな全員初対面だった。
中には同じ中学から来た人も多く、同じ中学同士でくっついている人もちらほらいた。
そういうのを見ていると、自分に友達が出来るのか不安になる。


先生が入学生の名前を一人一人呼び上げていく。
今年の入学生は全280名。
西野春という自分の名前はなかなか呼ばれなかった。

「佐藤夏」

校長先生が確かにそう呼び上げた。
私は思わずガタッと立ち上がった椅子の音がする方を見る。
そこには坊主姿の身長の高いいかにもスポーツが得意そうな男子がいた。

似てる。
似すぎてる。
そう思った時には頭の中は真っ白で自分の名前を呼ばれてる事にも気づかなかった。
「西野春。西野春!」
はっとして立ち上がると、戸惑いを宿した瞳で先生がこちらをみている。
みんなの注目を浴びたが恥ずかしくもなんともなかった。

頭にあるのは昔の記憶だけ。
「俺に近寄るな。関わるな。」
同姓同名。
自分をそう思いこませ、その場は落ち着いた。