気付けばもう、出発の時間だった。
ベッドに軽く腰掛けながらはあ、と昨日と今日で数えきれないほどした深いため息をついた。
きっとあと3秒でお母さんが部屋に来る。
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バンッ
ビンゴ!
「皐月、行くわよ」
声の主は思った通り、お母さん。
こうやって時間ぴったりに来るあたり、お母さんらしいななんて呑気なことを考えている自分もいれば、まだ整理が終わっていないこの部屋を見てどんな反応をとるのかびびっている自分もいる。
怒られるのは、嫌だ。
というより、お母さんが怒ると、どうなるかわからない。
毎度毎度、あらゆる手を使って自分の思い通りにするお母さんには驚かされる。
そんな最悪な事態を頭の中で色々想像していたら、お母さんが口を開いた。
「なんで、こんなに汚いの!」
「えーっと…その。
うん。なんと言えばいいのか…」
「ふーん。
じゃあ手ぶらでいく?」
お母さんは平然とした声ながら、顔には悪魔の笑みを浮かべる。
手ぶらって…
「財布と制服だけ持って。
ほら、行くわよ」
お母さんはそう言ってから、呆然としているあたしを引っ張って立たせる。
「えーと、財布、財布……
あ、これよね?
お金もちゃんと入ってる」
お母さんはひとりで話して、ひとりで納得して、あたしを引っ張る。
そして、部屋をでる。
…あたし、この部屋にまた戻る日が…
来るのかな?
なんて絶対に答えが出るはずのない質問を自分の心の中に問いかけながら、
部屋を後にした。

