その夜の晩餐会のメニューはそれはそれは豪華なものでした。
口の中でとろけてしまうお肉に、甘いスープ、見たこともない果物など、次から次へと運ばれて来ました。

一同は豪勢な料理に舌鼓を打っていましたが、ルシア姫は全く食事を食べるどころではありません。

先ほどからカイル王子が気になってしまい、とても喉を通らないのです。

姫様がこんな気持ちになるのは、生まれて初めての出来事です。その意外な様は小間使いが部屋の隅での格好の話の種になるほどでした。

好奇心のまなざしが注がれているとは全く気が付かないまま、姫様は晩餐会をぎこちない雰囲気でお過ごしになりました。

バンダス王もカイル王子もルシア姫が緊張していることは気が付いておいででした。バンダス王に関しては、通称”ばあや”と呼ばれる古参の世話係がことあるごとにさりげなく釘を刺したため、ルシア姫に恥をかかすことはありませんでした。
一方のカイル王子は、女性に対しての細やかな心配りは完璧に学習しておられたので、どぎまぎしたルシア姫をご覧になり、かえってかわいらしい印象をお持ちになったようでした。