重力地獄の決闘

「マック、そろそろ起きろよ」

 キムは、操縦席からインカムを使って、車長席を後ろに倒して眠り込んでいるマックを起こした。

「うん?んん〜〜っと。ああ、良く寝た」

「確かに、基準時で8時間ほどだね。入院で寝癖がついたんじゃない?」

「寝癖?髪の毛じゃあるまいし。
自分が起きてなきゃならなかったんで皮肉でも言ってんのか?」

「いや、そんな上等なもんじゃないよ。寝ると言うのはどんなもんかと思ってね。
ヒトと違って僕は眠る必要がないからさ、羨ましいわけ」

「確かに、上等なもんじゃないな。俺としてはそっちのほうが羨ましいと思うこともあるがな。
しかし、まったく眠らないというのも気持ち悪い。
1番いいのは、眠りたいときはいつでも眠れ、起きていたいときはいつまでも起きれるってやつだな」

「贅沢だな。いっそハイブリッドにして、そういう機能をつけてもらえば?」

「そいつも、1つの手だが、俺は今の俺が気に入っているからな。それに、少しくらい不自由じゃないと生きている気がしないよ」

「そういうもんかね」

「そういうもんさ。で、せっかく起こしたんだ。目的地に着いたのか?」

「うん。あと5分ほどで到着です」

「そうか」

 マックはキムの口調の変化に気付き、キムのモードが通常会話から業務会話にシフトしたのを感じ取った。