雪子は四限目の東の哲学に出た。もちろん出席カードに智子の名前も書いてやった。

どうみても、二十人位しか出席していない授業にカードでは五十人位の出席になっていた。

教授は『美のイデア』について事務的に語っていた。

授業は上の空で、雪子は智子の生活を想像してみた。

そして、自分の暮らしを考えてみた。

教授は、“神の世界があってそこには変わる事のない美しい世界がある”と言っていた。“人間は無意識にその世界を見ているのだ”とも・・・。

「だったら、選ばれなければいけないの？」

雪子はそう思ったが言うのをやめた。

「あぶない・・・。あぶない・・・」

心の中で何回も繰り返した。

四限目も終り、大学を出る雪子。今日は彼女に語りかける者が多い。正門を出た位であの男が立っていたのだ。