熱はなんだかんだで数日続いた。
体重も落ち、体力もなくなっていた。……そして、痩せたくない所まで痩せていた。
お願いだから上半身は痩せてほしくなかったんだけど……!!
自分自身のこともあるけど、少し驚いたのが海さんのことだ。
私が寝込んでいる間、メールとか一日に一回は「大丈夫?」などと心配メールをくれた。
というわけで久しぶりの学校になる。
朝ご飯を食べ、制服に着替えが終わった時に玄関からチャイムがなる。
「みずかちゃーん、学校行こ?」
海さんから、今日から学校行くと聞いたのだろうか。
外から緋未ちゃんの声がした。
「緋未ちゃんじゃん!久しぶりいぃ!!」
「朝から元気だねぇ、みずかちゃん若-い」
若いって……。
「緋未ちゃんも同級生でしょ」
いつも通りの朝、これからもまたいつもの生活に戻っていくのだと思った。
が………。
緋未ちゃんと話しながら学校へ行き、教室に入る。
東とも久しぶりに会えるし、ドキドキする。
自分、ほんと東のこと好きなんだなって思う。
「東、はよ……」
「……」
東の返事がない。
どうして……。
「あず……」
「あ、ひとみ茶じゃん。寝癖ひでぇ」
ひとみ茶……?それって緋未ちゃんのこと?
「寝癖直す時間なかったの……!!」
いつの間に、この二人仲良くなったんだろう。
「二人共仲いいね?」
「かな?」
「あぁ」
緋未ちゃんと、東は同じぐらいつめたい。
どうして……。
「ひとみ茶、昨日のテレビさぁ」
「見てないしぃ」
二人で話し始めたので、私はなんだかお邪魔な気がした。
「なーほ」
二人の会話についていけないので、私は菜帆の所へ行く。
「ん、久しぶり」
久しぶりに会ったんだけどなぁ、いつもの菜帆だ。
「何かさ、緋未ちゃんと東仲良くなったんだね」
口にしたとたん、なんだか胸が締め付けられる思いがした。
やっぱり妬くよ……。
「あの二人ね。みずかがいない間に意気投合したみたい」
「へぇ」
あの二人が、か。
何か意外だなぁ……。
「大奏」
昼休み、友達とはなしていると東が私のことを呼ぶ声がした。
「ごめんちょっと」
友達の所から離れて、東の元へかけよる。
「どうしたの?」
「今日、会えるか……?」
東の言葉に自然と笑顔になる。私って単純……。
「いいよ!」
「じゃ、いつもの所で」
いつもの所か。私の部屋でも構わないんだけど、どうしてだろう。
でも、その日はそれだけの会話しかしなくてちょっと落ち込んでいる。
そんな私を気づかうように、菜帆が何回も話しかけてくれた。
緋未ちゃんは、『東くんとのことはなんでもないよ。』って言っていたから安心した。
そして放課後。
私と緋未ちゃんは一緒に帰っていく。
緋未ちゃんによると、私の代わりに東の相談を聞いていたようだ。
それからお互い趣味が同じだということに気付き、意気投合したらしい。
緋未ちゃんは、私の知らない東をたくさん教えてくれた。
でも、それは東のことを全くに近いぐらい知らなかったことと言うことにもなる。
後、ここ数日で東は変わったとも教えてくれた。
よく女の子と話すようになったのだと緋未ちゃんは言う。
東……、もう私に飽きて他に好きな人出来たのかな。
そんなの嫌だよ、確かに最初は好きで付き合ったわけじゃないけど……。
でも、今は好きなのに。
「また明日」
緋未ちゃんと帰った後、私は着替えて東との待ち合わせ場所へと向かった。
「よっ」
「東〜っ」
良かった、いつもの東だ。私の大好きな東……。
「東、会いたかったよ」
「俺も」
気付けば人目のない場所へ移動し抱き合っていた。
「寂しかった……」
泣きそうな声で言う。
「心配した……」
少しだけ、安心している様子の東。
「東、私謝らなきゃいけないことがある」
抱きしめていたのを、自分から離して言う。
「何?」
私がここ数日、少しでも考えてしまったこと。
「最近、東の学校の態度が冷たすぎて……それならいっそ別れようかなって」
「……」
東は何も言わない。
不安で不安で仕方ない時間……。
「あっ、でも今はそんなこと思ってないよ!?だって私、東のこと」
「大奏」
東のこと、大好き。そう言い終える前に名前を呼ばれた。
「辛いか?」
「少しね」
優しい口調だったけど、東は真剣な顔だった。
「別れる……?」
……東、今何て……?
「東、私のこと嫌いになったの?」
「嫌いになるわけないじゃん」
小さい声で呟く。
「私は東のこと好きだよ」
「俺だって……」
じゃあ、何で別れようなんて言ったの?
私が、素直じゃなかったから?
冷たい風が私たちを包む。
風の音、車の走る音。それだけしか聞こえない。
「好きだから別れる。これ以上辛い思いさせたくない」
好きだから別れるって……、そんな漫画の世界じゃないのにそんなことって……!!
「嫌だよ……東……」
「ごめん……」
東は私をもう一度抱きよせて、最後に頬にキスをした。
「愛してたよ。ばいばい」
その一言を残して、東は私の元を離れていった。
私はただ、涙をいっぱい溜めながら東のことを見つめるしか出来なかった。
2ヶ月と少し。短い間だったけど幸せだったよ……。
東、大好きでした。
そんなにすぐ吹っ切れるわけがなく、今でも東のこと好きだけど東はきっと私のこと好きじゃない。
私はそう思う。
だから、大好きは過去形。
ありがとう、東……。
家に帰る途中、犬散歩をしている海さんに会った。
「海さん……」
「みずか?って、どうしたのさ……」
海さんに会って安心したのか、私は今まで溜めていた涙が一気に溢れてきた。
誰でも良かった。
話を聞いてくれる相手が欲しかった。
ただ、それだけの気持ちで海さんに助けを求めた……。
慰めてって……。泣き止むまで一緒にいて下さいって……。
「海さん……ッッ」
「みずか、こっちおいで。慰めてあげるから……」
私は、海さんに言われるまま海さんに抱きついた。
「みずか……」
海さんは、やっぱり分かっているようだった。
私と東に、何があったか……。
「みずか、よく頑張ったね」
それだけ言うと、私が泣きやむまでずっと側にいてくれた。
海さん、優しすぎるよ……。
「みずか、平気?」
「はいっ、もう大丈夫です」
それから家に帰るまで、海さんと一緒に歩いて行った。
そこで、気づいたことが一つ。
「海さん?」
「ん?どうしたん」
「どうして、そこまで私に優しくしてくれるんですか?」
近所に住んでいるから、妹さんと同級生だから。
それだけで、ここまで優しくはしないと思うからずっと気になっていた。
