―ツー、ツー、……



気がついたら、あたしの手はいつの間にか勝手に電話を切っていた。



どうしてだか、自分のしたことがわからなくて。


無機質な音を漏らし続ける手のひらの冷たい機械をただ呆然と見つめた。



「どして……」


あたしは虚ろな目で膝を抱えて床にしゃがみ込んでいた。




どうしてこんなにショック受けてるんだろう。


この家を出て行くことくらい、最初からわかってたのに。



珍獣さんと暮らしたのだって、まだたった3日で。

特に何かしたわけでもないし。



それなのに。


どうしてこんなにここを離れたくないなんて考えてるんだろう。






「アサカ?どうしたの?」


あたしを探しに来たのか、部屋を出てちょっと歩いたらしい珍獣さんが駆け寄ってきた。


どうして、どうして。

相変わらずあたしの脳内はそれでいっぱいだったけど、反射的に立ち上がって笑って見せた。



「ごめんなさい。
ちょっとぼーっとしてました」


完璧に笑ったつもり。


昔から、表情をつくるのはそれなりに得意なつもりだった。


心とは反対に、脳内は冷静で。

笑顔を平気でつくれる自分が、よくわからなかった。



「……?」


そんなあたしを、首を傾げながら珍獣さんは見ていた。


あたしはそれに気付かないふりをして、ここから離れようと思った。


何となく、ちょっと一人になりたいような気がして。



「じゃあ、朝ご飯つくりに行きますね」

「アサカ」



踵を返したと同時に呼び止められ、あたしはゆっくりと振り返ろうとした。