「良いわけないでしょ。わざわざ抜けてきたんだからね」
「……来なくて、よかったのに」
「何ですって?」
縮こまる着ぐるみさん。
この2人どういう関係なんだろう……?
「あの、もしかしてミユキさん達って付き合ってますか?」
「は!? 私とトーマスがっ!?」
勇気を出して口にした質問に、ミユキさんは心外だというような表情をした。
それだけじゃなく、顔の前で嫌そうにぶんぶんと手を振られた。
「私はごめんよ、こんな変人」
「俺も、ミユキ、怖い……」
「あ、そうですか……」
じゃあ一体どういう関係なのかと、また謎が深まった。
ふとミユキさんが壁の時計を見て言った。
「って、麻伽ちゃん。もうこんな時間だし、親御さん心配してるんじゃない?」
「あ……」
その問いかけに、あたしは返す言葉を失った。
……あんな親が、心配なんてする訳ない。
内心そう思いながらも、そんなことを言えるはずがなくただ俯く。
「アサカ、今日から、俺と、住む」
そんなあたしを黙って見ていた着ぐるみさんが、突然そう言った。
あたしはびっくりして顔を上げた。
だけどそれ以上に驚いた表情を見せたのはミユキさんだった。
「何言ってんのよトーマス!」
「さっき、アサカ、言った」
「……本当なの? 麻伽ちゃん」
信じられないという風な顔で見てくるミユキさんに、あたしは黙って頷いた。
「…………」
ミユキさんは暫く口を閉ざして、あたしと着ぐるみさんを交互に見つめた。
やがて、はぁ、と小さくため息をついてあたしの方に向き直った。
「トーマスに限ってありえないとは思うけど、もし何かあったらいつでも私のとこに来て良いからね」
そう言って名刺を渡すと、「仕事があるから」と告げてミユキさんは帰っていった。
あたしはその後ろ姿をただ見送ることしかできなかった。
再び、着ぐるみさんとふたりきりになった。


