「弓弦、もう出てきてええよ?」
…え??
もしかして、仁王君気づいてた?
どうして仁王君に気づかれたんだろう。
あれ、仁王君って今まで私のこと名前で呼んでたっけ?
いや、今まで苗字だった…。
何で、急に名前なの?
一瞬にして、頭の中がパニックになった。
「…弓弦」
『は、はいっ!!』
今、私の名前を呼んだときの仁王君の声が物凄く低かった気がする。
…思わず、2人の前に飛び出してしまった。
「雅治、どういうこと?この子、誰よ?」
松本さんくらいモテて有名な人は私なんかの事は眼中に無いから全く知らないんだろうな、きっと。
まぁ、私も松本さんみたいな人にはあまり興味とか沸かないけど。
その瞬間、仁王君にグイッと抱き寄せられた。
「見てのとおりじゃよ」
すると、松本さんは大粒の涙を流して教室から走り去ってしまった。
去る間際に《雅治の浮気者!!》と言い残して…。
……全く状況を理解できない。
いや、したくない。
『あのう、仁王君そろそろ放して貰えないかな??』
「おお、スマンスマン」
何で、こんなにも笑顔なの…
『えっと、状況を詳しく説明してもらえるか、な?』
「状況って…ああ、彼女役ご苦労さん」
仁王君は悪びれた様子も無く、さっきとは逆でニコニコしていた。
《…ああ》って…。
…ちょっと、彼女役?
私の聞き間違い…なわけ無い。
松本さんは私を仁王君の彼女だと思ったんだよね。
絶対に変な噂になるよ、どうしよう…。
