未葵。
お前は、ずっと、俺を見てくれていたんだな……。
俺と同じように、いいや、俺よりずっと苦しんでいたんだな…。
「泣くなよ、未葵…
泣かないで……。」
溢れ出しそうな涙をこらえて、小さな声で言った。
わいわいした居酒屋に、俺の声は書き消されてしまう。
「…ごめん蒼ちゃん。
死ぬ前は、絶対泣かなかったのに。
私、弱虫だね……。」
未葵はそう言って笑った。
泣き虫な未葵。
強がりな未葵。
病気に立ち向かった未葵。
いつも笑顔だった未葵…。
全て、あの頃のまま、なにも変わらない、未葵…。
「………未葵、好きだった。
大好きだった。」
過去形にしたのは、
忘れる覚悟をしたから。
未葵を、思い出にする、覚悟。
涙が止めどなく流れる。
涙ではっきり未葵の顔は見えなかったけど、
ぼんやりと見えた未葵の顔は笑顔。
大好きだった、未葵の楽しそうな笑顔だった。
「私も、蒼ちゃんが、
大好きだったよ。」
眩い光が、未葵を包み、俺は目を伏せた。
俺が目を開けた時にはもう、未葵はいなかった。



