ピアス

「家によりなさい。このままぢゃ風邪引くわよ。傘の意味は余りなかったみたいね。風強いから……。」
「夏江さん……。」
 わたしは夏江さんにしがみついた。足が震え、支えがほしかった。
「どうしたの?」
 夏江さんが愕いた顔をした。
「秋江さんが……、秋江さんが……。」
 ことばにならない。口を閉ざし俯くわたしの肩に、夏江さんがそっと手を置いた。わたしは、何度か深呼吸をして、やっと口を開いた。
「秋江さんが、お風呂場で……手首……。」
 最後まで云い切らないうちに、夏江さんは血相を変えて家の中へ突進していった。
 わたしは、後を追う気になれず、そこに立ちすくんだ。