準備室を掃除するたび、毎回のように先輩たちが残していった過去の遺品というか、ただのガラクタというか、なんだかよく分からない物が発掘されることには正直感心する。

それは大抵デッサン用の壺だったり、お酒だったり、トランペットだったりするけど、そんなガラクタにまじって出てきたのは千宏の作品だった。
カバーのビニールの上にうっすら埃をかぶって、随分みすぼらしく見えた。

千宏はこの作品で、今年の地区コンクールで金賞をもらった。
校内選抜を通って県のコンクールにも、出品した。

さっと埃を払うと、鮮やかな水彩画が出てきた。

千宏が入賞した時は、わたしと千宏の仲も良かった。
だから千宏が入賞したことがすごくうれしくて、みんなでお祝いした。

千宏を美術部に勧誘したのはわたしだ。
中学校は帰宅部だった千宏が美術部に入部したのは高校二年になってからで、それも地区コンクールの直前だった。
中学校からずーっと美術部だったわたしは、入選すらかすりもしなかったわたしは、才能には敵わないことを知ら占められて、悔しくて、嫉妬したことを、千宏は知らないだろう。



 しばらく千宏の絵の前にしゃがみこんでいた。
ビニールに映る泣き出しそうな自分が馬鹿馬鹿しくなって、ため息をついて立ち上がった。

「葎、今日活動あるの?」

美術室に戻るなり、菜々瀬から声をかけられた。
今年度のコンクールやら作品展やらは先週の絵葉書コンペで最後だった。

「ないけど」

菜々瀬はふーんと話題を切り上げ、それなら進路室に行ってくると言って、優衣と、数人を連れて出て行った。
その後ろ姿を見送って、チョークを手に持った。

『先帰ります。湊川』

後輩と残りの二年生もサボりだ。
いいじゃん、帰ったって。
もしかすると、たぶん、初めから部活に来る必要もなかったのかもしれない。