美術室に着くなり、菜々瀬と優衣はお喋りに花を咲かせているグループに合流して、話を盛り上げ始めた。
部活では優衣も別人のように喋る。
相変わらず、おどおどしてはいるけど。
わたしはそれらを無視して、美術準備室とは名ばかりの、完全に物置に成り下がってしまっている隣の教室に入って、内側から鍵をかけた。
いっそう油のきつい匂いのするこの部屋は、なんでだか落ち着く。
鍵を中に持ち込んで、内側から鍵をかければ誰にも会わなくてすむ、ここ最近の、わたしの避難場所だ。

別に、みんなとお喋りするのが嫌いなわけじゃない。
でも、既に盛り上がっている会話に、途中から参加してまで話したい気分でもないし、邪魔したくもない。

冷たい床に、ゴロンと寝転べば、思った以上に床に埃が積もっていた。

(いい加減、掃除しなくちゃ…)

掃除も嫌いなわけじゃないけれど、この部屋はこうして私が避難するぐらいにしか使わないし、この部屋が汚くて部活に支障が出るわけじゃないから、めんどくさくて、ずっと後回しにしていた。

いつからだろうか。
前はもっと、積極的に部活をやっていたのに、今は自分も周りもいい加減な感じで、必要最低限のことで済ませてしまう。


箒であらかた掃いて、軽く雑巾をかける。
それだけで、部屋はすごくきれいになる。
世の中のことが、全てこんな風に単純だったらよかったのに。
雑巾で拭けば、床がきれいになるように、わたしのモヤモヤも、きれいさっぱり、拭き取ることができたらいいのに。

そうはならない。

このモヤモヤでイライラでぐちゃぐちゃな苛立ちは、きっと、この部屋に長年かけて刷り込まれた、油のきつい匂いと同じように、簡単には消えてくれない。

できるなら、全部投げ出してしまいたい。
進路もことも、千宏のことも、全部なかったことにしてしまいたい。

わかってる。
わかってるのにわたしの周りに漠然とした“わからない”ばかりが積もっていく。

何故だか無性に苦しくて、いつか埋もれてしまいそうに感じる。
だけど、そんな小さなことでこんなにも大袈裟に悩んでる自分が、今は一番嫌いだ。