帰りのホームルームなんて正直どうでもよくて、いつまでも教室に拘束されていたくないし、ホントのところはみんなもさっさと終わってほしいに違いない。
 ありがたいことに、担任の瀬野ちゃんは本人のめんどくさがりな性格もあると思うけど、そういうとこなかなかわかってて、いつもホームルームはあっさり終わらせる。

 瀬野ちゃんは、もうおじさんだけど、日焼けして、程よく締まった身体にロマンスグレーの短い髪がすごくかっこいい。
古風な丸眼鏡があれほど似合う人は、瀬野ちゃん以外に存在しないんじゃないかと思ってしまう。


 ホームルームが終わっても、めんどくさくて机に突っ伏して、欠伸を噛み殺しながら、なんとなく窓の外を眺めていた。
二年三組の教室からは、反対側の校舎にある美術室がよく見える。

美術室は好きだ。
年中、油の匂いと熱がたちこめる美術室は日当たりがよくて、木の机についた沢山のカッターの傷跡も、あちこち絵具で汚れた床も、全部大好きだ。

なのに、あの部屋に行くのが、最近なんか苦しい。

絵を描くのは楽しい。
部活の友達も嫌いじゃない。
強いて気に入らないところを言えば、唯一の後輩があまりにもできが悪い。
そんなことがストレスだと思うと余計にイライラするのだけれど。
今だって、早く部活に行きたくて、だけど、本音では行きたくなくて、サボりたいと思ってる。

 なんでかわからないけど、最近何をやってもつまらない。
教室にいるのは息苦しくて、部活にも行きたくなくて、家にも、帰りたくない。 

 考えないようにしてきたはずなのに、いつの間にか家に置いてきた“進路希望調査用紙”が気になってしまう。 

(わかってる、わかってるよ・・・)

決めなくちゃいけなくて、逃げてちゃいけなくて、その期限は今週の金曜日なんだから。



「葎?何してんの?部活行かんの?」 

 珍しく部活に誘ってきた菜々瀬の後ろには、もちろん優衣がくっついていた。

優衣はよく分からない。
いつも愛想笑いばかりだし、ポヤッとしてるから何も考えてないように見えてしまう。
実際考えてないんだろうけど。

 いつまでもだらだら教室にいるわけにもいかず、わたしはしぶしぶ重たい腰を上げた。