「ねえ、りっちゃんさ、夏休みS学院大のオープンキャンパス、行ったんだよね?」

「へ?ああ、うん」

今年の夏休みはたしかに行った。
S学院大だけじゃなくて、N大とF教大にも。
ホントに熱心だったと思う。
だけどそんなの、知佳には関係ない。
知佳が一年時から、彼氏と同じY大を志望校にしていることは、とっくに知ってる。

「なんで?」

「志望校変えようかなーって。私文に行くんだ」

「私文!!?」

さらりと流す知佳に、わたしも芽衣子も驚いた。

私立文系クラスといえば、名目上は有名私立大学を目指す特設クラス。
だが、大抵はいわゆる落ちこぼれの寄せ集めクラスだ。

「志望校変えるって…どこに?」

一番訊きたかったことを芽衣子が言った。

「S学院かF大。推薦で受験したいから私文かなって」

「たしかに私文は推薦してもらえるけど…Y大じゃなかったの?Y大は国立でしょ?」

知佳はしばらく無言で箸を動かしていた。
わたしはそれどころじゃない。
わたしが見つめていると、知佳は照れくさそうに言った。

「商業の勉強したいの。その先も…まあいろいろ考えてるんだけど、とにかく商学部に行きたい」

知佳の言葉が胸に刺さった。
ちゃんと考えてる。
知佳はちゃんと結論を出してる。
その場にいるのがいたたまれなくなった。
逃げ場がない。
わたしは逃げてばかりなのに…。

ふと顔を上げると、わたしが一人もんもんと塞ぎ込んでいるうちに、いつの間にか、二人は勝手に別の話題で盛り上がっていた。
話しがそれたことに、安堵する自分がいる。
これでいい。
もう少し、このままでいたい。
わたしは愛想笑いで二人の会話に合わせた。


不意に、背中に気配を感じた。
思わず振り返って廊下の方を見ると、会いたくない人物がうっかり目にはいった。

「りっちゃん?…どうした?」

芽衣子は不思議そうに尋ね、わたしの視線を追ったのか、教室の入口で雑談をしている彼に気づいた。

「あ、千宏くん?」