あまりにも腕に馴染んでいて、魔術がまだ解かれていないことをすっかり忘れていた。
「少しお待ちくださいね」
そう言ったフィオは、あたしが差し出したブレスレットに手のひらを翳すと、複雑な呪文を唱え始める。
僅かに熱を持ったと思った瞬間、ブレスレットがパキッと小さな音を立てて砕け散った。
「……あー…、壊れちゃうんだね」
「す、すみません。小さいブレスレットなので加減が難しくて…」
あたしの素直な感想に、フィオが慌ててぺこぺこと頭を下げる。その様子がおかしくて、思わず笑ってしまう。
「あははっ!そこまで謝らなくて大丈夫だから!ずっと身に付けてたものが壊れちゃって、寂しくなっただけだよ」
「うう…すみません」
もう一度頭を下げたフィオが、困ったように顔を上げると、「…リオさん」と少し遠慮がちにあたしの名前を呼んだ。
「僕の故郷が戦場になった時…マーサにかけた魔術を覚えていますか?」
「え?魔術って確か…」
急な話に首を傾げながらも、その魔術を思い出した時、一つの可能性が浮かぶ。
そんなあたしの表情を読み取ったのか、フィオが言葉を繋いだ。
「はい。…記憶を、操作する魔術です」
「………っ」
「リオさんが望むなら…この世界での記憶を、消すことができます」
この世界の記憶が、無くなる。そう考えた瞬間、あたしの答えはすぐに出ていた。
「ーーー消さないで」
この世界で生きたことは、忘れたくない。


