その瞬間、声がハッキリと聞こえた。


『助けて…!』


夢なんかじゃない。


あたしに話しかけてきたのは…真っ白な馬だ。


「クリス…!」


背後から聞こえたエルの声に、あたしは思わず振り返った。


「え?クリスって…」


「俺たちの荷台引いてた馬だ!何であんなとこに…」


もう一度馬に視線を向けると、その手綱を握っている人物が目に入った。


ヒゲが生えた茶髪の男で、嫌がる馬を無理やり引っ張っている。


「俺たちから盗みやがったんだな、あの野郎」


エルは悔しそうにそう言うと、あたしを見た。


「いいかちびっこ。俺はあいつの後を追う。お前は待ち合わせ場所でアスティを呼んで来い」


「え?ちょっ…!」


あたしが何か言うより先に、エルは駆け出していた。


あたしはその背中に向かって、声を張り上げた。


「助けてあげて…!」


さっきの悲痛な叫びに、胸がぎゅっと苦しくなる。


あたしは待ち合わせ場所へと、急いで足を走らせた。