傾いた世界を救うために、生け贄を捧げようとしている国王。


自分勝手で傲慢な人物を想像していたけど、実際目の前にいる国王はどこか違った。


…思い返してみれば、この国の人達は、今日の式典を凄く楽しみにしていて。その時あたしは、国王の人望は厚いと感じたんだ。


生け贄を捧げるのだってきっと…この世界が大切だから。


ーーーあたしと、同じ気持ちなんだ。



ぼんやりと思考が定まらないまま、差し出されたバスケットに手を伸ばす。


けれど、あたしが受け取っても、国王は手を離そうとしなかった。


「………?」


何だろうと思って視線を上げると、国王の瞳はあたしの手元を見て見開かれていた。


そして次の言葉で、あたしは自分の行動を後悔することになる。


「その…ブレスレットは…」


左腕に光る、銀色のブレスレット。長袖のシャツから見えてしまったそれは、生け贄の証。


「………っ!」


しまった、見えないように袖を長くして隠してたのに、バスケットを受け取るときに捲れて…!


「ーーーリオ!離れて!」


ユーリの鋭い声に、ハッとして手を引っ込める。バスケットが落ちるより早く、目の前の国王の姿が消えた。


何が起きたか分からないうちに、近くでドサッと何かが倒れる音が響く。


「……っ、ユーリ!」


そこには、床にうつ伏せに倒れるユーリと、それを見下ろす国王の姿。