…その一瞬の気の緩みが、悲劇を招いた。


「エル!」


誰かの声に、俺はハッとした。


背後からの攻撃を防ごうと、咄嗟に剣を構える。


けど、不十分な体勢で受けたからか、剣が弾かれ、俺の手を離れていった。


「………っ!」


武器を失い、パニックに陥った俺の耳に届いたのは、聞き慣れた声だった。



「―――エル!あの短剣は、オモチャじゃねぇぞっ!」



この時俺は、頭で考えたわけじゃなく、体が勝手に動いていた。


敵の一撃を身を翻してかわし、懐にしまっていた短剣を抜く。


そして一気に踏み込み、敵の真正面に飛び込んだ。


「……うぐっ…」


呻き声が頭上で聞こえたかと思えば、敵の体がぐらりと傾き、地面に倒れた。


手に持つ短剣を見ると、真っ赤に染まっている。


…けどそれは、何よりも俺が生きているという証。


「………」


この短剣が、俺を守ってくれた。