カウンターに座る老婆に近づくと、老婆は手に持つ新聞から、視線だけを俺に向けた。


「…おや?どうしたのかね」


小さな眼鏡の奥の瞳が、探るように俺を見る。


俺はカウンターの上に片腕を着くと、思考を巡らせて訊ねた。


「黒髪のちっこい女が、宿を出てかなかったか?」


「……いや。私はずっとここにいたが、見てないねぇ」


新聞見てて気付かなかっただけじゃねぇの?と言いかけたその時、老婆が「そういえば、」と続けた。


「やけに大きい荷物を持った男なら、さっき出てったけどねぇ」


「男?」


眉をひそめてから、考える。


―――――『若い女が、忽然と姿を消すらしい』


脳裏に甦ったセリフに、そんなまさか、という思いが募る。


―――――『何だかね、神隠しだって噂になってるんだよ』


神隠し…その正体が、何者かの手によって行われる人拐いだとしたら。


ちびっこは、まさか…


「おい婆さん!その男はどんなヤツだった!?」


突然の大声に驚いたのか、老婆は目を見開いた。