あたしにもっと、周りを考えて行動できる頭があれば。
みんなに、迷惑をかけずに済むのに…
「余計なこと考えんなよ」
ふと顔を上げれば、真剣な琥珀色の瞳があたしを見ていた。
逸らすことなんて出来ずに、真っ直ぐ見つめ返す。
「何でもかんでも溜め込みすぎなんだよ、お前は」
「………っ、」
コツン、と額を叩かれた。
片手で額を押さえるあたしを置いて、エルはクリスの手綱を引いて歩いていく。
…ダメだ。最近のエルは、どこか雰囲気が柔らかくて、戸惑う。
「ま…待ってよ!」
何とか声を振り絞り、開いてしまったエルとの距離を埋めようと、走る。
いつもより速い心臓の鼓動が、周りの風景を掻き消していた。
「…じゃ、バカな真似すんなよ」
部屋の扉を前に、エルが立ち止まって口を開く。
あたしも扉に手をかけながら、振り返って眉を寄せた。
宿の部屋で、バカな真似って…あたしが何をするって言いたいの。


