そもそも事の発端は、ほんの数十分前―――――…



「起きろちびっこ」


「ぬわ!?」


頭に一撃を受け、あたしは目を覚ました。


殴られた箇所を押さえながら起き上がると、不機嫌を隠そうともしない、エルの姿が目の前にあった。


「何すんの!痛いじゃないっ!」


そう文句を言うと、


「何回呼んでも起きないのは誰だ。お前のせいで出発が遅れた。朝からうるさい。馬が逃げた」


…倍以上になって返ってきた。


「てゆうか何、馬が逃げたって」


あたしがエルの言葉に眉をひそめると、剣を布で拭っていたアスティが言った。


「クリスがね、夜のうちに逃げちゃったみたいなんだ」


「…クリス?」


「うん、クリス。オレたちの荷物を運んでくれてたんだけど」


アスティが自分の剣から、ちらりと視線を横に外す。


その視線の先を追うと、転がった荷台と、山積みの荷物が見えた。


そして、引きちぎられた手綱も。