「早く!僕、医学かじってるから!」


子供ながらのその気迫に押され、俺はゆっくりとちびっこを下ろす。


裂けて血塗れになった衣服を改めて見ると、申し訳ない気持ちが渦巻いた。


「…よかった。出血のわりに、傷は浅いね」


安堵のため息を漏らすと、イーズは腰にあるポーチから何かを取り出す。


塗り薬と、包帯と…次々に出てくる医療品を、俺は黙って見ていた。


「あった。痛み止め」


そう言って、イーズは黄色の塗り薬を傷口に塗ってから湿布を貼り、素早く包帯を巻いていく。


その手慣れた様子をじっと見つめていると、いつの間にか近くにいたケルンが口を開いた。


「イーズは、親が医者だったんだ」


「………へえ」


「自分の子供を捨てた、ひどい親だ。…けどイーズは、その仕事に憧れてたんだ」


ケルンは優しい瞳で、イーズを映す。


…コイツらにも何か、過去にあったんだろう。


それを、知りたいとも思わないけど。


「―――人拐いより、立派なんじゃねぇの」


俺の言葉に、ケルンは目を丸くする。


そしてすぐに、泣いたように笑った。


「…俺も、そう思う」


視線の先にいるイーズは、小さくても、患者のために働く医者に見えた。