ピリピリとした嫌な空気が、この空間を支配していた。
視界の端に映るおじさんは、真っ青な顔で固まっている。
…きっと、売り物であるあたしたちが殺されそうになるなんて、思ってもみなかったんだろうな。
「ふざけてんのはアンタらだろ?」
チャリ…という音を立て、女の人が剣を構える。
「アンタらのせいで、アタシは全てを失ったんだ!」
降り下ろされた刃を、エルはギリギリで避けた。
あたしとエルの間で、重たい金属音が響く。
せめて、この手錠が外れれば…!
「いっ、…」
「エル!」
剣の切っ先が、エルの頬を掠めた。
じわりと滲み出る血に、恐怖しか浮かばない。
逃げるとか、そんな問題じゃない…生きなきゃいけないんだ。
「俺らが、何したっつうんだよ!」
左手で頬を乱暴に拭いながら、エルが叫んだ。
「…無意識が、一番最悪だね」
女の人はすうっと瞳を細めると、その冷やかな視線をあたしに向けた。
「お嬢ちゃんも、そう思うだろ?」
「………っ」
びくっと肩を震わせたあたしの前に、エルが立つ。
「コイツは関係ない」
エルの表情が、分からない。
「…俺たちは、間違ったことなんかしてない」
そんなに苦しそうな声を出すエルは…どんな表情をしているんだろう。


