ベランダの手すりに頬杖をつく王子は、俺の姿に気づいていないようだった。
王子のすぐ近くの木の枝に腰掛け、俺は口を開く。
「ずいぶん、物憂げなんだな」
「!?」
王子は目を見開くと、俺の姿を紫のその瞳で捉えた。
辺りは真っ暗だが、月明かりで十分に俺の顔は見えたはず。
王子は眉をひそめ、俺をまじまじと見つめた。
「…キミは…?」
その問いに、俺は一瞬間を開けてから答える。
「俺は、エル」
…盗賊だと、敢えて明かそうとは思わなかった。
ただ興味本意で近付いただけなのに、ここで正体明かして、捕まるのだけはゴメンだ。
王子は声には出さず、口の形だけでエル、と俺の名前を呟くと、微笑んだ。
「…オレは、アスティ」
―――いや、知ってるし。
そんな思いを口にすることができなかったのは、王子があまりにも楽しそうに笑ったから。
「すごいね、エル。この木登ってきたの?」
俺が座る木を、上から下まで眺めては、感心したように王子が言う。
今度は俺が、王子をじろじろと見る番だった。


