まさかとは思いながら、咳き込んだまま顔を上げる。


その先に見えた姿に、あたしは目を見張った。


「……、エル…!?」


エルはため息をつくと、あたしの腕を引っ張った。


「オラ、立てちびっこ。こんなとこで時間潰してんなよ」


「え…、何で…?」


エルがここにいるのが信じられなくて、あたしは瞬きを繰り返す。


そんなあたしに、エルは琥珀色の瞳を向けた。


「…ここには一度、世話んなったからな」


いつも真っ直ぐな、エルの瞳。


でも今は、迷いが見えた気がした。


「宿で寝てたらクリスが騒ぐんだよ。んでお前に何かあったっつーから、とりあえず地下牢に来たってわけ」


早く行くぞ、と言わんばかりに、エルはくるりと背を向けた。


その背中に、あたしは手を伸ばす。


「………何だよ」


あたしの手は、エルの服を握っていた。


僅かに振り返るエルに、あたしは口を開く。


「…行っちゃ、やだ」


呟くようなあたしの言葉に、エルは眉を寄せた。