手を伸ばしたのは、アスティ。


その手を掴んだのは、俺。



だがそれは、間違ってなかったのか。


俺と出会わなければ、アスティは今頃、この国で不自由ない生活を送れたんじゃないか。



…そんな嫌な考えは、この八年間、ずっと俺につきまとった。


アスティの表情を見れば、楽しんでいることは分かる。


分かるのに、どこか怖い。



いつか、いなくなるんじゃないかと―――…




「ちょっと、お客さん!」


扉を乱暴に叩く音に、俺は弾けるように立ち上がった。


部屋の扉を開けると、そこには宿主が困った表情で立っていた。


「…どうしたんだよ」


「どうしたじゃないよお客さん!お宅の馬、どうにかなんないのかね!」


「…馬が何だって?」


眉をひそめると、宿主は俺の腕を引っ張って、宿に隣接した馬小屋まで連れてきた。


そこにいるクリスを見て、宿主が言っていたことを理解した。