楽々荘の住人十色

口をつぐむ僕と沈黙の広がる部屋。
唯一、気持ちのいい音をたてる缶ビールが口を開く。

「暗い顔しないでよ、久々の再会なんだし」

早苗さんは手の平で温くなったビールを僕から取り上げると、わざわざ開けて返してきた。

一口だけ飲んだビールはやけに口の中を苦くする。

「えっと…その、大学の単位は大丈夫なんですか?」

微笑む早苗さんは缶ビールをソッとベッド脇の机に置くと俺の腰に腕を回した。

「知らないし、わかんない。留年したら大学なんて辞めるよ。」

そして、固まる俺の身体にキスをする。