「………。」






私は、建物の下で呆然としていた。




その建物は白を基調とし汚れが無いところをみると、まだ出来て間もないのだろう。

とても一人暮らしの女子大生が住むようなところには見えない、オシャレなデザイナーズマンションだ。

しかしどうやらここが、本日付で私の住家となるらしい。

お母さんも奮発したものだ。



部屋選びにも連れてきてもらえず、決まってからも全然教えてくれなかったので、どんなトンデモ物件かと身構えていたが、どうやら予想はいい方向に外れていたみたい。














「溝口唯奈さんかい?」





くだらない考えごとをしていたわたしに声をかけてきたのは、このマンションに不釣り合いな感じのする、昭和の匂い漂うお爺さんだった。





「そうですが…失礼ですがどちら様で??」


見覚えのないお爺さんは、ニコリと笑うと


「このマンションの管理人じゃ。」

と教えてくれた。






「おまえさんのお母さんから電話があっての、もうすぐ着くから迎えに行ってほしいと。

おまえさん、ここに来たことがなかったんじゃな。
さぁ、入ろう。」





一方的に話した管理人さんは、自己紹介もなしに広いエントランスをズンズン進んでいく。


待って待って、歩くの早いよ!