ある時、俺は芦野にこんなことを言ったことがあった。
「やっぱ、芦野は強ぇよなぁ」
「そうかな」
「おー。五回に一度しか勝てねぇもん。」
「んー、そう簡単に抜かれちゃ、僕の面目丸潰れだ。これでも四歳からやってるんだけど。」
滴り落ちる汗をタオルで拭いながら、芦野は苦笑した。
「いつか絶対抜いてやるからな」
「ははっ、本当に抜かれそうで怖いな。」
「余裕だな」
「まあね」
「さすが最強の遺伝子を持ってるだけあるな。」
「…親は関係ないよ。これは、努力で上手くなるかならないかのものだからね。」
一瞬。ほんの一瞬。
いつも底抜けに明るい芦野の顔に、影が差したような気がした。
「あし…!」
「そういえば、来週は大会があるね」
「お、おー。そうだな」
既に、芦野はいつもの明るい顔に戻っていた。
「優勝は僕だから。」
「いや、今回は勝たしてもらうよ。そうだ、勝った方が負けたほうにアイス奢るってのはどうだ?」
「いいね。」
芦野はそう言って、自信満々に微笑んだ。

