「えっ、璃依!?」
「いないよ、保健室には。」
教室を飛び出そうとした私を呼び止めたのは、芦屋くんのこの一言だった。
いつもと違う、どこか冷たさの入り混じった声に私の足は自然と止まってしまったのだ。
「…どういうこと?」
ゆっくり振り返り、じっと芦屋くんを見据える。
やっぱりこの人は、何かを知ってて隠してる…?
一体、葵と何の関係があったんだろう。
本当にただの幼なじみだったの?
そんな意味を込め、芦屋くんの瞳を深く見続ける。
そんな芦屋くんも、まるで心の奥を見透かすみたいに私の目をじっと見続けていた。
どれくらいそうしていたのか。
やがて芦屋くんは、ふっと自嘲気味に笑うと、表情を緩めた。
「そんな怖い顔しないで。僕はさっき、たまたま保健室に行ってきたところだったんだ。そこに森崎はいなかったし、途中ですれ違わなかった。それだけだよ」
緩められた表情には、さっきの冷たさなど微塵もなく。
私は、思わずホッとしていた。

