「ほら、行くぞ」
いつもはここで、すっと左手を差し出してくれる。
けど今日は。
その手はポケットの中のままだった。
風邪をうつすまいとしてくれている気遣いが、嬉しいような哀しいような。
「…葵。」
「ん…?」
「手。」
「…は?」
「だから、手!」
ぷいっと目を反らして、右手を差し出すと葵は一瞬きょとんとした。
だけどすぐに。
「ばーか」
可笑しそうに笑いながら、私の右手を左手でぎゅっと握ってくれた。
「学校着いたら、すぐ手ぇ洗えよ?」
「…洗わないよ」
「お…、珍しく素直で。」
「めっ、珍しくは余計!」
前言撤回!
すぐ洗ってやるから!
「俺がいなくて寂しかった?」
「…別に、玲菜いたし。」
「ははっ…、元に戻っちまった」
「こっちこそ、心配して損した。元気じゃん」
「心配してくれたんだ」
「しっ、してない!帰れバカ葵!」
「はいはい」

