運転席から回答があった。ただ、その声は今までのユミを思いやっていた優しいものではない。とリサは思った。ただ、決してそれは冷たいものではない。がなっているヒカルにも、そのヒカルを一喝したタケシタという男の声にも、過ぎ行く時間に対する怒りと諦めの感情が込められているような気がした。そして、この二人が作り出した空間に迷い込んだ自分とユミをもどかしく思った。
車内にはなんともいえない重苦しい空気が流れた。誰も言葉を発することのできない空気が全体を支配した。外の景色はだんだん山の中に入ってゆき、雪の積もり具合も増してきた。天井から降ってくる雪の粒はだんだん大きくなってワイパーに重くのしかかる。なんとも不安で重たい空気が続いた。雪のせいでだんだん自動車ものろのろ運転になっていった。

二人の気配が消えた・・・。タケシタはそっとバックミラーを見た。さっきしゃべっていた二人の女の子が寝息を立てている。せっかくの旅行なのに出先からこの三人に不快な思いをさせてしまったことを悔やんだ。

「どーせ。『私のせいでこの二人には不快な思いをさせてしまった・・・。』とか思ってるんでしょ。」
ヒカルがボソッと言った。頬杖をしながらバックミラー越しにタケシタをにらんでいる。
「ヒカルとは何年ぶりかな・・・。」
タケシタがぼそっといった。
「いつ帰ってきたの?」
タケシタの言葉に反応せずにヒカルがいった。
「ちょっと前。」
二人の会話はお互い独り言のようだった。
車は相変わらずノロノロ走っていた。
「バイト?」
「ああ。」
「いい所?」
「寒いけどね・・・。」
「ふーん。」
「温泉。良いからさ。」
「ついたら入るよ。」
「・・・。」
ちょうどそのとき。目の前の木々がパッと開けてクラシックな山荘が現れた。
タケシタはホッとため息をついた。ヒカルは二人の体をやさしくゆすった。